暖かい部屋の中の、雪が降る地方に建つ家。暖かい部屋の中で、90歳を超えた女性からから雪がよく降る寒い地方に建っていた家の話を聞いた。冬になると雪が積もって、つららが伸びてきて、家の内側から竿でポキポキ折らないと家から出れないんだと言う。《今はない》家のことを《ここにあった》とリアルにその人は語り、その人は話しながら記憶の中を行ったり来たりする。《昔あった/今はない》《過去/現在》の狭間でその人は話しながら現在を過去に取り込み回帰されていく。

 話を聞けば聞く程その家はイメージの中に立ち上がり存在を始めるが、立ち上がれば立ち上がる程、それは《今はない》ものとして居場所を失う。《過去/現在》の間で宙に浮く家。私は決してその家に入ることができない。

 その人の記憶の中の入ることができない家の屋根から、つららは少しずつ伸びてくる。

 

つららは一日一日長くなる

つららは一日一日長くなる

2002年

不飽和ポリエステル樹脂、木、塗料

東京芸術大学修了制作展ー取手