−なんにいたせ、坂を上がって、池でも高いところだからね。それ上がって、ずーっと上がっていって、ずーっとまっすぐ山へ行っただ。これ、ここから坂になってんのね。それ、坂上がって行くと右っ側に畑があって、左っ側はこうずっと下がったりの山であったの。それずーっと行って、道行って、右っ側にあってね。確か道のへりで、こういう風に大きかったよね。池が。ー



山の上の大きな池。

高い山は切り崩され、大きな木を一本残して、山の上の池の器が消えた。

器が無くなった池の水は、木を目印に器を探し始める。

道を流れ、家を流れていく。

池の水は木を探し、小さなくぼみに辿り着く。

お婆さんの記憶の中に生まれる小さな池の器。池の水はそこに注ぎ込まれていく。



 山を削って出来た新興住宅地の脇に、昔ながらの集落に下リていく坂がある。その坂を降りていき、押し車を押すあるお婆さんと出会った。私はお婆さんに、昔山の上に池があった話を聞く。お婆さんはまるで今もその池があるかのように、詳しく池までの道程を話し始める。決して辿り着くことのない池への道程。「戻って来れなくなったら困るから行ったことないの。」お婆さんは、池が無くなってから上に上がったことがないと言う。

 お婆さんは、決して上がることはない坂の下で押し車を押す。


 

器のない池

1. 展示風景

 gallery J2


2. 木を目印に

  2003

    200.0cm

  木、塗料  

3. 山を削り生まれた土地

  2003

    7.1×20.0× 94.0cm

  木、塗料


4. 押し車を押す

    2005

    46.0×53.0×72.0cm

  木、塗料、モザイク、布、他

5. 器のない池

  2003

    120.0(φ)×24.0cm

  ポリエステル樹脂、インク